淋菌感染症

淋病感染症の診断と治療

はじめに

淋菌感染症 gonorrheal infection は淋菌(Neisseria gonorrhoeae)による感染症です。臨床的には主に男性の尿道炎と女性の子宮頸管炎をおこします。

病原菌と感染様式

淋菌は1879年にNeisserによって発見されました。腎形またはそら豆形のグラム陰性双球菌です。高温に対しても消毒薬に対しても抵抗力が弱いです。そのため、間接伝染は少なく、ほとんどが性交あるいは性交類似の行為による直接感染です。産道感染から新生児に結膜炎をおこすこともあります。

診断

①女性の淋菌感染症
女性においては淋菌はまず子宮頸管炎をおこし、典型例では膿性帯下がみられますが、無症状のことも多いです。淋菌は尿道へ感染して尿道炎をおこし排尿痛を生じることや、バルトリン腺炎、直腸炎をおこすこともあります。子宮頸管に感染したのち、治療が遅れると、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎(PID)に進展し、発熱、下腹部痛の症状がみられます。淋菌とクラミジアの同時感染が少なくないため、クラミジアについての検査も同時に行うべきと言われています。

②男性の淋菌感染症
男性の淋菌感染は、通常、急性尿道炎として発症します。2日から7日の潜伏期の後、突然に排尿痛および外尿道口より排膿(膿性分泌物)を生じます。淋菌感染症の15~30%にクラミジア・トラコマチス(クラミジア)感染症を合併するといわれています。

③淋菌性咽頭炎
性器淋菌感染症の患者の咽頭から、男女ともにかなりの高頻度で淋菌が検出されることが報告されています。オーラルセックスの一般化によるものと考えられています。咽頭の淋菌感染症は自覚症状および他覚所見に乏しいため、症状の乏しい淋菌性咽頭炎がオーラルセックスによって新たな感染源となって感染を広めていると推定されています。

治療と予後

淋菌は薬剤耐性を獲得しやすい細菌です。

①セフトリアキソン静注/1g/単回投与
淋菌感染症は早期に確実に治療されれば後遺症もなく完治されますが、不完全な治療がなされた場合、慢性化することもあり、感染源となり感染者の増加をもたらします。淋菌感染症は性感染症ということからパートナーの検査と治療は必須です。

淋菌性尿道炎

尿道炎のうち淋菌によるものを淋菌性尿道炎とよび、淋菌が検出されないものを非淋菌性尿道炎と呼びます。

淋菌性尿道炎と非淋菌性尿道炎の比較

  淋菌性 非淋菌性(クラミジア性を含む)
潜状期間 2~7日 1~3週
発 症 急 激 緩 徐
排尿痛 強 い 軽 微
尿道分泌物 黄白色膿性 白色漿液性、粘液性
多 量 少 量

包皮の腫脹および陰茎腹側の腫瘤が3cm大まで。術後の問診にて commercial sex worker によるオーラルセックスの際に、包皮の小裂傷から感染したと推察しましたが、尿道炎症状はみられず。膿性尿道分泌物、発熱を生じて母に伴われて来診、外尿道口に特徴的な膿性分泌物。左陰囊内容は一塊となり手拳大に腫大、激痛あり。体温38.4℃、白血球数11,000、左副睾丸、両側骨盤リンパ節の腫大著明。若年者の副睾丸炎の起因菌は、腫大と疼痛との程度の順に淋菌、インフルエンザ菌、クラミジア、結核菌の4種です。

淋菌性子宮頸管炎

淋菌感染パートナーとの性行為により、標的組織である子宮頸管部腺上皮または尿道粘膜上皮に感染します。したがって女性での基本疾患は子宮頸管炎または尿道炎です。頸管炎の症状は帯下の増量、下腹部痛などです。一般的にクラミジア性子宮頸管炎と比較して症状が激しいとされているのが、無症候性感染者の存在も知られています。黄色帯下の増量と下腹部痛を生じることで受診されます。

淋菌性咽頭炎

子宮頸管と咽頭のスワブから淋菌が培養されます。咽頭痛、発赤などの咽頭の自、他覚症状はまったくないこともあります。淋菌は同質の円柱上皮が存在する尿道、頸管、結膜、咽頭に感染することがあります。尿道、頸管、結膜では膿性分泌物が必発しますが、咽頭では無症状で菌量も少なく、コロニゼーション男性の淋菌性尿道炎の約半数は無症状の女性咽頭を感染源としています。SPCM(トロビシン)は咽頭淋菌に100%無効で、CTRX(ロセフィン)は100%有効です。

淋菌性結膜炎

① 著明な結膜充血、結膜浮腫、大量の膿性クリーム状の眼脂を特徴とする化膿性結膜炎です。発症は急激で、多くは両眼性、ときに偽膜形成を伴います。急速に進行して角膜穿孔を来す可能性があるので、入院のうえで治療を行うことが望ましいとされています。

② 産道感染による新生児の本症は19世紀欧州の小児失明の最多原因で、全生下児の硝酸銀点眼法(クレーデ法)で予防されます。患児の父母の性器は淋菌陰性でも、母の咽頭から同一の栄養型、血清型の淋菌が検出されることがあります。産道感染以外の母児間の伝播は現在でも散発しています。

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