クラミジア感染症

クラミジア感染症の診断と治療

はじめに

性器のクラミジア感染症はChalamydia trachomatis(クラミジア)による性感染症で、性行為およびその類似の行為(オーラルセックスなど)によって感染します。男性では尿道炎と精巣上体炎を、女性では子宮頸管炎と骨盤内炎症性疾患をひきおこします。淋菌性尿道炎の20~30%にクラミジア感染症を合併します。女性の子宮頸管に感染したクラミジアは上行性に子宮内膜や卵管を経て腹腔内に至りますが、慢性の経過をたどり卵管性不妊の原因となります。稀に感染が上腹部に及ぶと肝周囲炎を発症し、急性腹症をおこすことがあります。男性も女性も感染後1~3週間で発症しますが、女性では性器クラミジア感染者の半数以上がまったく症状を感じないといわれており、男性でも症状が自覚されない症例が多いです。

性器クラミジア感染症の臨床症状

女性においても、感染後1~3週間で発症し、初感染部位は子宮頸管です。感染してもその約半数以上は無症候ですが、症状が出現する場合は、帯下が増量する程度であり、本人もクラミジアに感染している自覚がないことが多いです。上行性に感染が拡がって子宮内膜炎を発症すること、不正子宮出血が出現することもあります。さらに子宮付属器に達し、卵管炎や骨盤内の炎症性疾患をひこおこし、下腹痛や骨盤痛の原因になります。しかし女性性器におけるクラミジアは、一般には急性感染症状を呈することは少なく、慢性に経過することが多いです。結果として卵管性不妊の原因になったり、時には子宮外妊娠の原因になるとされます。

診断

感度・特異度とも優れているPCR法(核酸増幅法)が用いられることが多いです。男性では非侵襲的な初尿検体が用いられ女性では、子宮頸管の分泌物や擦過検体が用いられることが多いです。クラミジアの血清抗体検査は、男性においてはクラミジア感染の既往の有無についての判定には使えても、その時点で感染があるか否かの診断には使えないため、行うことの意義は少ないです。ただ、女性の性器クラミジア感染症ではその範囲が広く腹腔内に及んでいるため、子宮頸管からのクラミジアの検出がない場合でも、症状と内診所見で異常がある場合は、血清抗体検査を行い、陽性例では治療の対象とすべきともされています。

治療

日本性感染症学会によって推奨されている性器クラミジア感染症の処方例
マクロライド系薬としてアジスロマイシンとクラリスロマイシン、テトラサイクリン系としてミノサイクリンとドキシサイクリン、ニューキノロン系としてレボフロキサシンとトスフロキサシン、ガチフロキサシンが推奨されています。このうちアジスロマイシンは1,000mgを単回経口投与のみ、他の薬剤はいずれも7日間の経口投与が必要です。妊婦にはアジスロマイシンとクラリスロマイシンが使用可能ですが、他の抗菌薬は安全性が確立されていません。

治癒の判定

→2週間後 再検査

病原体の陰転化の確認は投薬開始約2週間後に、PCR法かEIA法を用いて行うことが望ましいです。治癒の判定は、投薬開始2~3週後に行われることが望ましいとされています。

女性性器クラミジア

① 子宮頸管炎

性行為で女性性器に侵入したクラミジア・トラコマチスは子宮頸部の腺上皮細胞に感染し、発症すると子宮頸管炎をおこします。クラミジア性子宮頸管炎では漿液性頸管帯下の増量が特徴的所見です。しかしクラミジア感染がおこっていても症状を自覚しない症例が多数存在します。

② 子宮内膜炎

未治療の場合、子宮頸部の腺細胞に感染したクラミジア・トラコマチスはそこで増殖したのち、上行性に子宮内膜の被包腺細胞に感染が波及することがあります。下腹部痛と不正性器出血を自覚したのちに右上腹部激痛を主訴として肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)を時に発症します。

付属器炎と不妊

感染が上行性に波及し、卵管炎や卵管周囲炎、肝周囲炎(Fits-Hugh-Curtis症候群)をひきおこします。これらは卵管閉塞や卵管采周囲癒着を形成し、卵管性不妊症の原因になります。また、卵管火峡部と卵管采が同時閉塞すると卵管膨大部に卵管液が貯溜し、卵管留水腫を発症します。
肝周囲炎は肝臓表面と腹壁に癒着を形成し、特徴的な右上腹部痛や不妊症の原因となります。

クラミジア新生児結膜炎

生後8日目に右眼に眼瞼腫脹を伴う結膜充血、眼脂を生じ、1日後左眼も同様となり、結膜スメアにクラミジア陽性が発生することがあります。
「尿道炎症状を自覚しやすい男性」のクラミジア陽性率は17%にすぎず、「無症状の女性」の65%に比してはるかに低く、抗体価も低いです。クラミジア感染症が男性では早期治療の機会が多く、無症状の女性は長期保菌し感染源となります。

クラミジア咽頭炎

性器にクラミジア感染がある男性、女性の咽頭クラミジア陽性率はおのおの3.9%、10.5%で、性器に淋菌感染のある場合の咽頭淋菌陽性率29.4%、33.3%に比してはるかに低いです。性器に淋菌感染のある患者のパートナーの咽頭からは淋菌のみが検出される場合が多いと考えられます。クラミジア結膜炎では、涙管を経てクラミジアは咽頭からも検出されますが、この場合も咽頭炎の症状はありません。

クラミジア合併率

  咽 頭 直 腸
男 性 2/51 (3.9%) 0/12 (0%)
女 性 4/38 (10.5%) 24/45 (53.3%)

性器クラミジア感染症患者の咽頭、直腸からのクラミジア検出率女性で直腸のクラミジア陽性率が高いのは、頸管に感染したクラミジアが、膣分泌物に含まれて隣接する直腸に到達するためです。

男性性器クラミジア

男性のクラミジア性尿道炎の多くは、感染後1~3週間で発症しますが、無症候に近い状態のため、感染時期を特定できない場合もあります。症状は淋菌性尿道炎と比べ軽微で、軽い排尿痛や尿道の瘙痒感があり、粘液性から漿液性の尿道分泌物が少量みられます。クラミジア性尿道炎では、淋菌性尿道炎と異なり、外尿道口周囲および亀頭部には発赤や浮腫を認めません。
確定診断は、初尿を用いて、核酸増幅法であるPCR法にて行います。
尿道分泌物が粘液性で排尿痛が強いなど、淋菌性尿道炎の可能性が否定できない場合は、尿道分泌物のグラム染色を行って淋菌の有無を確認するほうがよいとされています。治療は、クラミジアに抗菌力を有するマクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系の中から薬剤を選択します。感染部位が尿道であるため排尿痛などの症状を自覚できる場合が多い男性で、女性より受診、治療の機会が多いです。

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